仕事、家族…つれづれ 5
いつの間にか、彼女が席を立ち、男は昔仲よしだった友人の愚痴を聞いている。
「ちょっとのことで全く違った人生になっちまったなあ」。
男はこの友人と同じ大学を出て、同じ会社の入社試験を受けた。
男は試験に通り商社マンになって、世界を股にかける人生を歩んできた。
友人は故郷に帰り、教師になった。
男はこの地方の出身者としては、それなりに成功者といえるかもしれない。
だが今夜の同窓会は男に別の苦く、切ない、思い出を胸いっぱいに溢れさせている。
入社してしばらくたって、好きな女ができた。
大事な彼女の誕生日のデートに急に仕事ができて一時間半も遅れた。
しかしもう彼女は帰っていなかった。
「連絡の方法がなかったのに冷たいな」とか「それほど俺を好きでもなかったからだ」と彼女にふられた理由を自分にそう言いきかせて生きてきた。
しかし、彼女のことはいつも心の底にひっかかってきた。
「やはり美人はいいなあ。
あの女ならマドンナといい勝負だ。
そしたら俺はどんな人生を歩んでいたか」。
人生はなんと、たわいもないこと、何気ないことで、違ってしまうのか。
中年とは、引き返しのつかない人生の岐路に今あるのだな、と自分を客観的に見ることができる、切ない年齢である。
振り返ってみると、人の一生は仕事でも結婚でもほんの少しのところで大きく分かれる。
ほんの少しの性格や能力の相違、偶然の差が先に行くほど大きく広がり、成功する人間と失敗する人間に分かれてしまう。
本当に年を取ると、差がハッキリしてくるのがおそろしいです。